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「 ちーちゃん、かわいい 」

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■ ままごと『わが星』@三鷹市芸術文化センターを観てきました。この劇団と作品を知ったのはクチロロ経由で、初演から三浦康嗣さんが音楽を担当していたと聞いたからでした。しかもどうやら『わが星』の音楽が「00:00:00」のもとになったらしいと。2010年の岸田戯曲賞に選ばれ、それ以前にすでにかなり評判になっていたことは「言われてみればタイトルは聞いたことある」程度しか知らなかったのですが、なんとなく気になって公式サイトを見てみたらおもしろそうだったのでチケットを取ってみたのでした。気になったら行っておくべし。とくに演劇は。というのが今年のモットーなのです。いまそう決めました。

■ しかしですね、おもしろそう、の反面、サイト(作品世界に合ったきれいなつくり)でシナリオと合わせて音声のみ聞くことができる冒頭の10分ほどのシーンで「私にはこりゃだめかも」とも思っていました。正直なところ。ここをごらんいただければ、わかる人にはおわかりいただけるかと思いますが、ひどい言い方をしちゃうと「気持ちが悪いな、おい」と3分も聞くことができなかったのです。新しいとか言われてるようだけど、自己満足的な、やってる本人たちだけが楽しそうな、若いやつがやけに元気でうんざりするようなやつじゃないか?と。というような悪口はもうここまでです。『わが星』とても良かったです。あらすじやちゃんとした解説や批評は、今回は再演だし他のどこかにたくさん書いてあるはずなので、気になる方はそちらを探していただくとして、ここには宮沢章夫さんが昨日観劇した際に書かれたツイッターのまとめだけ貼っておきます。ちゃんとした(何をもって「ちゃんと」かわかりませんけど)もので私が読んだのはこの宮沢さんのツイートだけなので。で、以下に『わが星』の感想を書きます。

■ 冒頭、懸念していた通り「あいたたた」とは思いました。でもそれはほんのわずかな間。サイトの音声だけではわからなかった舞台のクオリティ、美術、照明、役者、演出がきちんと成立していることはすぐにわかりました。それは後半にいくに連れてますます「ものすごくよく出来てる表現」として圧倒的になっていきます。ただ音楽がいくらかっこいいとはいえ、それに合わせてラップのように喋り踊る役者さんの姿にはしばらく違和感を持ち続けました。音楽がただのBGMではなく作品の構造(ブレイクビーツ/カットバック/反復といったヒップホップ的手法)に大きく関係している『わが星』はミュージカルのヴァージョンアップでもあって、しかしそれは更新ではあっても批評ではないように思え、完璧に私の生理的な問題でやっぱり「気持ちが悪いな」と感じちゃったのです。おいおい本気なのか、このままこれで押すのかと、とちょっと心配な気持ちになりました。そんな不安と警戒心、「こんな素直で楽しい(気になっている)だけのものなら、いただきま〜す、とはこっちも素直には食わないぞ」「ましてやいまは楽しく歌って踊ってりゃそれでいいって気分じゃないんだ」という強ばった態勢を解いてくれたのは、サイトで聞けたオープニングからあと、シナリオでいうと「わたし」役で劇中では「ちーちゃん」と呼ばれていた、役柄なのか俳優の魅力なのか、たぶんどっちもがばっちりとはまった端田新菜さんの存在でした。

■ ちょっと説明しちゃうと『わが星』は宇宙/人間の時間と存在を重ね合わせて描くことで、私たちが実感できる小さな生と死のリアリティを宇宙視点のパースペクティブのなかに照らしだすような物語なのだけれど、惑星そのものであり惑星をお互いに見つめ合う目(空の星の光)でもあり、集合団地に暮らすステレオタイプな家族の一人でもある、という役を演じるこの作品の役者として、それぞれの往還をちーちゃんはごく自然に体現していました。自然体の演技がいい、とか、安っぽい役者を褒めるときによく使われる言い方があるけど、これこそが本当の自然体でしょう。ちーちゃんとはつまり「地球ちゃん」なんですけど、地球と少女を演じ分けるなんていう小手先の技術でなくして、同時にそれとして舞台に存在できるって、そんな自然体の演技見たことないですよ。それだけで奇跡みたいな作品だと思いました。ちーちゃんが、もうほんっとにかわいいんだ。ほんと愛おしいんだ。ちーちゃんが主役といえば主役だから、物語も演出もそういうふうに駆動させているのはわかるんだけれど、ちーちゃんが愛おしく思えるから、舞台全体に光が反射していくみたいに愛おしさが連鎖的に満ちていって、もう途中からたまらなくなってくるのですよ。ずっと我慢していたんですけど、だめでした、決壊です、泣いてしまいました。悲しくて泣いたんじゃないよ、うれしくて愛おしくて涙が出てきちゃったんだよ。一瞬の暗転で急いで涙拭きまくり。あんまり安易に言いたくはないんだけど、3月11日以降のいまだから、それが愛おしくてたまらなくなってしまったんだと思います。危うく声まで漏れそうになってしまいました。ちーちゃんが愛おしい、そう感じたことで作品全体を覆う素直さも「もうぜんぶ食べさせてもらいます!」と素直に思うことができました。

■ そして記憶している限りでは二度目、劇場で配られる観劇のアンケート用紙にその場で感想を書きました。とても愛おしい作品でした、ちーちゃんがとてもかわいい、ありがとうございました。そんな子どもの感想みたいなこと書いて「40代」のところにしっかり丸をしておきました。ちなみにこれまでに一度だけ書いたアンケートでは、学生時代に知り合いが手伝っているという素人(といっても500円くらい取ったはず)の芝居に誘われて行ったときに、用紙にびっしりぼろくそにけなした感想を書かせてもらった覚えがあります。

■ と、私が絶賛するまでもなくたくさんの人が絶賛している『わが星』だと思いますが、ここまで感情的に褒めておいてこんなこと言うのもなんですが、音楽の効用として人の感情をある種支配的に鼓舞する、要は興奮剤的に音楽を機能させているということについては「身をまかせちゃったけど良かったのかな」という、パーティー後の酔いが覚めてしまったような自分への疑いはちょっとあります。それは最後のほうで例の歌をみんなで歌うところで「おっとこれは?」と我に返っちゃったときに頭をかすめました(あの歌はいらなくないかなあ)。ひとつの方向に強制的に導いているという音楽の使い方と同じ意味で、提示はしているけど問いではないということも引っ掛かる。それでもなお、あの場で感じた「ちーちゃん、かわいい」って気持ちを素直に受け入れたいと思っているんですけどね。あと作品と評価にあまり関係ないことだけど、こういう洗練されていて「ものすごくよく出来てる表現」で「素直」なものって、音楽(バンド)の世界でも多くなっているんじゃないかしら、って以前から感じていたことを思いながら観てました。

■ 『わが星』東京公演は来週までありますけど完売みたいですね。昨日はまだ残ってたんだけど。



なー、ゴマ。「 ちーちゃん、かわいい 」_d0075945_5114051.jpg
by gomaist | 2011-04-21 05:32 | 演劇


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