「 人間を疎外するあらゆるイデオロギーへの問い 」


■ 存在さえ知らなかった東京芸術センターという施設が北千住にあり、先日そこで「テオ・アンゲロプロス監督追悼企画 全10作品一挙公開」として4月から始まっていた上映2作目の『狩人』を観た。

■ 1949年から1977年(本作公開年)にいたる内戦を経た後のギリシア近現代史を寓意的に描いた作品。『狩人』は初見だったがアンゲロプロスの映画は若い頃から何本か観ていて、後期になって政治色は後退したものの(冷戦構造の崩壊と共産主義の失速に対応。アンゲロプロスは左派の論客だった)作品のイメージはイデオロギーを骨格とした神話的寓意性に満ちた映像と時空を錯綜させた語り、長回しとロングショット、黒の表現力という一般にも語られる通り一遍のものしかなくて、深く入り込めなかったのはギリシア現代史に疎く(理解するために学習をしなかったわけだが)、アンゲロプロスのイデオロギーにも距離を感じていたからだった。圧倒的な映像の魅力、自分にとってはそこだけがアンゲロプロスの映画に惹かれてきた要素だと言ってもいい。イデオロギー、メッセージ、それら言語的な内容の優位に立った映像美があると受け止めていた。(勝手な想像だけれどアンゲロプロスは映画にはイデオロギーを凌駕する力があると信じていたんじゃないか。映画の外に映画以外の神を見ているように思えてならないタルコフスキーとは自分の中では対照的な存在なのだった。)

■ しかし(おそらく)史実に正確な政治史を題材に公開時の1977年現在さえも捉えた『狩人』では、映像の魅力とともにその内容の普遍性に強く惹かれた。1976年大晦日の雪原で見つかった内戦時代のコミュニスト兵士の死体。しかし死体はまだ温かく血を流しまるで生きているよう。あるホテルに集う男たちの手で運ばれた死体を巡り憲兵たちの尋問と立場が異なる列席者たちの述懐が始まる。右派と左派の対立における急進派と中立的リベラルの存在、大国(アメリカ)の介入による共産主義の排除と見せかけの政情安定、軍事政権、王立と政治などなど、そのままずばりではないにせよ、日本の近現代史と重なるところもある。物語は単なる回想だけではなくホテルの一室に1949年の人間が現れるなど時空を混在させた語りで進行していく。マジックリアリズムを思わせる非現実的なシーンにおける生々しさには舞台作品のような瞬間もありつつ、物語の内容は映像が先導し観る者を内部の時に深刻で悲哀に満ち時に滑稽な迷宮に引き入れて行く。迷宮はギリシア(あるいは私たちの世界)が統治/反動に翻弄される現在そのものだ。あたかも亡霊たち=「過去」による「現在」の処刑のような一縷の反撃を経て、ラストシーンは歴史の隠蔽と共産主義への決別を暗示させるが、それは共産主義側から見た敗北に収斂させるものではなく、人間を疎外するあらゆるイデオロギーへの問いではなかったか。

■ 財政危機がなお進行中のギリシアの現在(国民の25%が公務員、不相応な社会保障制度という実質的に社会主義国に近い体制で起きた赤字財政の隠蔽発覚からの破綻)と合わせて考えれば複雑な心境にはなるが、映画で描かれた現代史が世界経済を揺るがすに至る道程だったとしても、内戦の歴史の一端に触れてそれでも彼らは戦って現在に立っているのだ。明治維新以来戦うことさえなかった日本のいまを思う。などと、ほんとに思ってるのか?という、らしくないこともメモとして留めておこう。

■ 東京芸術センターでは現在『アレクサンダー大王』が上映中(〜5/12)。以降、8月まで連続で全10作が公開される。2〜3時間超のアンゲロプロス作品を観賞するには椅子が少々貧弱だけれども、かなりしっかりしたスクリーンを備えたシアターで料金は1000円というのがうれしい。8本分6000円という回数券もございますよ。私は残り8作全部観る勢いです。北千住でお会いしましょう。

■ うっとおしい春のムンムンから初夏に移り変わろうとしているいま、長い冬眠生活を終えてまもなく社会復帰することとなりました。ゆるゆると離陸するつもりだけれど、また失敗するかもしれません。そのときはそのときで。ご心配をお掛けしているみなさまに取急ぎご報告まで。




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by gomaist | 2012-05-07 14:46 | 映画


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