「 7月に観た演劇、その感想を 」


■ 7月に観た演劇、その感想を。8月も終わりですけど。

■ ままごと『朝がある』@三鷹芸術文化センター(7月1日/7月5日)。大石将弘による一人芝居。石造りの城壁のような高い壁が半円状に背景を覆い他には何もないシンプルな美術。客席後方から大石氏が歩いて舞台に上がり芝居は静かに始まった。ある地方都市、ある朝、ある女学生が登校途中でくしゃみをし水たまりを跳んだ一瞬、その瞬間の世界を大石氏の語りと身体、音楽と照明と映像が描出する。女学生の日常、彼女が暮らす町の風景。水たまりを跳んだときに空にかかっていた虹。虹という現象から光、太陽、空、宇宙へ。水、川、海へ。光の解析、物質の解析、音の解析。視点は女学生の鞄のなかから、地球の外まで跳躍し、急潜行で物質のなかに飛び込んで、分子、原子、陽子、電子核、素粒子まで行き着き、過去から未来を駆け、太陽光に導かれて世界中の星空を巡り、女学生のいまに還ってくる。スケールの大きな視点の移動はチャールズ&レイ・イームズ『パワーオブテン』を想起させた。大石将弘は語り部であると同時に、女学生とは別の時空間にいる鬱屈した日常をおくる男でもあるが、そんな構成上のギミックをすんなり呑み込めたことも含めて演劇的な刺激に溢れた作品だった。圧倒的なセリフ量を大石将弘は軽やかにこなし、歌い、ラップし、舞台を縦横に動いて音楽、照明、映像とシンクロしながらそこに風景を出現させた。確かに女学生はいたし男もいた、川が流れ工場の音で一日が始まる町の駅や電車、路地、水たまり、虹、女学生の家、部屋のなかの様子が様々なカメラアングルで見えれば、光や音の粒子までが見えたような気がした。『わが星』の高揚とスケール、『あゆみ』の発明と完成度を期待したら違うが、『朝がある』は二作の変奏として私は観たし、精度の高さは二作以上かもしれない。何より地味といえばかなり地味な題材が一瞬ディズニーランドを連想してしまうほどのエンターテイメントになっていたことが素敵だ。世界を描写しつくして「いまの生」をそっと肯定する着地は相変わらず優等生だなあと思ったものの、究め方にどこか狂気も感じられてとても好きな作品だった。で、二度観た。原案となった太宰治『女生徒』(*コレ間違えて「女学生」って書いてた。なんとなく昭和な間違いで恥ずかしい…)は作中のモチーフにすぎず作演出の柴幸男氏をインスパイアしたもの、という程度か。初見の帰りには雨のなか会場すぐ近くの禅林寺にある太宰の墓を参った。

■ マームとジプシー『マームと誰かさん・さんにんめ 今日マチ子さんとジプシー』@SNAC(7月21日)。マームと誰かさん3部作の最終回は漫画家の今日マチ子さん。これまでの大谷能生氏、飴屋法水氏からすると、傍目には今日マチ子さんはマーム藤田貴大氏と親和性が高い作家なのではないかと思われる。今日マチ子さんの漫画はネット(ブログ)でしか見たことがないので勘違いかもしれないが、作品の核には思春期の女性への目線があり、彼らが扱うセンチメントは生/死の本質にリーチする揺らぎやすく消えやすい繊細なものだ。また今日マチ子さんの輪郭の曖昧な線と、マーム藤田氏の確定しない言葉の置き方にも共通の意思を感じる。舞台は夏。二人の女子高校生が放課後に川に沿って歩き海まで出る、その間の思いが綴られていく物語。会場の壁にはこの作品のために今日マチ子さんが描いた原画が展示され、それらは作中プロジェクターで役者の背景に物語に合わせて投影される。その距離と重なりから物語やエピソードにも協業の跡が感じられた。親友のように見える二人、実は一方(青柳いづみ)は一方(川崎ゆり子)をわずらわしく思っている。なぜならあまりにも自分に似ているから。彼女のなかに見える自分が鬱陶しい、彼女がどこかに行ってしまわないかと念じている、そんな思春期特有の膨れ上がった自意識に苦しむ高校生を青柳いづみはいつものように飄々と、しかし黒く残酷な心を滲ませて好演していた。私が観た回(初回)だけかもしれないが、川崎ゆり子はいまひとつの調子。何度かセリフをとちり、動きでもきっかけを間違えたのが私の目でもわかり、余裕がなくなっていく様子にちょっとハラハラした。二人の役者をそうして、ちょっとだけ意地悪な目で見ていると、演じようとする川崎ゆり子の硬直した身体と演じているように見えない青柳いづみの解放された身体に気づく。青柳いづみの動きや声は一見カクカクとした自由とは思えない、むしろみずからコントロールできていない不自由さを感じさせるが(もちろん「できていない」のではない、あえていえばコントロールできないようにコントロールしている)、そのことが演じる/演じないの二元論を無効にさせて舞台上に“青柳いづみ”という役者を存在させる。鯉(=恋)の被り物をした青柳いづみの「女子あるある」コーナーも挟みつつ、おもしろおかしく、かわいらしく、物語は川沿いの歩行とともに進むが底流にある屈折した憎悪と閉塞感は「行き止まりの海」に辿り着いて暴発し、青柳いづみは川崎ゆり子を絞殺することになる。しかし「ごめんね」と繰り返しながら馬乗りになって仰向けの川崎の首を絞める姿は作中で現れるプールに飛び込み沈むシーンとの連想で、溺れた彼女(=自分)を蘇生させているようにも見え、みずからを殺めることで生まれ変わる思春期の通過儀礼のような恐ろしくも美しいラストシーンだった。背景にはジャンボジェットが飛ぶが手の届かない憧憬でしかないそれは「男の子のもの」だと彼女たちは女子であることから逃れられない生/性に閉じ込められているが、彼女たちを見るまなざし(作者と観客)は自分のなかにある遠い夏に向けられたそれだったと思う。いやあ、「女子」な作品だったなあ。私は今日マチ子さんのよい読者ではないので青柳いづみの魅力だけで堪能してしまったが、今日マチ子さんと藤田貴大氏のコラボはこの先も続き、来年にはひめゆり部隊を題材にした今日マチ子『COCOON』が舞台化される。

■ 青年団『東京ノート』@東京都美術館(7月22日)。何度目かの再演だが私は初見。会場はリニューアルされたばかりの都美で、上演は舞台を設営することなく美術館の一画に観客席を作った場所で行われた。美術館内の休憩用に椅子が置かれた空間、そこに様々な人物たちが現れて会話をし通り過ぎてゆく、その様を観客である私たちはただ目撃させられる。設定は20××年(実際には上演前のモニターに年号が出ていたが失念)の近未来、上京した美術好きの長女と会うために兄妹が美術館に集まる。最初に登場するのは長女と次男嫁で、二人の世間話や家族の話などから徐々に微妙な人間関係やヨーロッパで戦争が続いていることがわかってくる。そこには彼ら家族とは無関係の者らも現れる。学芸員たち、美術館に親の遺産のコレクションを寄贈する女と恋人らしき男、弁護士、戦地に派遣されて帰って来た男と恋人の女、大学教授(学者?)らしき男と連れの女、大学教授が家庭教師をしていた教え子でかつて恋愛関係にあった学生の女と友人、かつて反戦運動に関わりいまは地方の実家に帰った男と連れの女、彼らが美術館の休憩スペースに立ち寄り、通り過ぎ、なんらかの小さな関わりとドラマの切片を見せていく。劇中の美術館の企画はフェルメールで登場人物がそれぞれに語るフェルメール観が「観ること/視ること」に関する表現論になっており、作品にメタ視点を持ち込むのだけれど、奇しくも会場の都美はフェルメール展の会期中であり(もちろんそれを狙っての上演だろうが)、入れ子構造はより複雑になり現実/虚構がメビウスの輪になったような場に観客は置かれる。そうした劇構造や語られた物語、内包した批評もおもしろかったのだけれど、瞠目したのは役者の動線で、メインの舞台にされた休憩スペースの背景は奥行にして20〜30mはあるロビーと物販コーナーで、突き当たりには階上へ繋がる階段があり、さらに休憩スペース傍にある1機のエレベーターまでもすべてが「舞台」として使われていた。ひとつの場所で複数の会話が同時進行する「同時多発会話」は平田オリザの発明的真骨頂でいまでは他の演劇作品でも普通にその手法は使われているが、この広大で複雑な「舞台」を利用して10名以上の役者を出入りさせながら彼らの織りなす会話をわずかの乱れもなく、あたかもその場で会話が生成してたような間で構成してみせた演出にはほとんど唖然とした。現実のある場面を切り取って舞台上に上げるとき、それを現実に似せるためには現実の精緻な解析だけでなく、一度極限まで分解した要素を再構成し再現する工程が必要になる。そのとき現実から抽出した要素だけでは舞台にそれを出現させることはできなくて、そこで演出の技術が駆動することになると思うのだけれど、平田オリザの技術と実践はなんというか、常軌を逸している。もはや神業の域なのではないか。いうまでもなくそこにはフェルメールの絵にも通じるところがある。工芸品と芸術品の差は「現実から抽出した要素」以外の何かにあるのではないか、と関係あるのかないのかわからないが、そんなことを思った。

■ 長くなってごめんなさい。



なー、ゴマ。d0075945_2348392.jpg

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by gomaist | 2012-08-31 23:51 | 演劇


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