<   2013年 07月 ( 1 )   > この月の画像一覧

7月6日/グッドバイ/暑さ


7月6日。東京の最高気温は34℃でその時はそんなことは知らなかったけど、陽射しはまっすぐで強く、34℃あったと言われればそうだったかもしれないと納得するほどには暑くて、戸が開け放たれた清澄白河SNAC前の一方通行の道は白く光って人通りは多かった。バストリオの新作『グッドバイ』は会場と空間的に隔たりのない戸外を使って上演されたが、これまでもバストリオは毎回場所を変えながらそれぞれに固有の空間性を常に組み込んだ作品を作ってきたし、上演環境と作品内容が不可分であるということは取り立てて特殊性をもたらすものではなく、舞台表現の一回性を自明として、作品の質感のようなものを現前させることに取り組んでいると思われるバストリオにとっては、空間の扱いや「舞台/客席」=「演者/観客」に生成する関係は舞台上で行われる行為と同列で変数として作品に組み込まれてしかるべきものであって、もはや特筆される要素ではないのだけれど、そのこと自体がバストリオの特有性を作品へのとっかかりにおいてはわかりやすく示しているかもしれない。

バストリオを語ることはむずかしい。それは言葉でつかみとれるようなことを彼らがしていないからだ。過去には『絶対わからない』という態度表明のような作品があったが(頭で理解するという意味ではほんとにほとんどわからなかった:笑)、わからないことをわからないまま提示すること、つまりわからないことこそが表現すべきものであり、わからないことをわかるようにするのが目的ではなく、わかることの価値より、わからないことの価値に依拠しながら、そのわからなさを表現によって現前させ、観客に感覚させ、現実に接続することで、表現という回路を通じて現実の正体に肉薄すること。そして生の肯定の在処を探ること。それがこれまで観てきた数作の舞台作品(バストリオは映像作品もある。観てないけど)に共通して感じたバストリオの目指していることだ。現実のすべてをわかることなんて誰にもできない。だからこそおもしろい。生まれて生きて死ぬだけ、それが現実のすべてだ、という境地に身を置いていられない人たちがじたばたしながら、人間と現実について、私とあなたと世界のあれこれについて、生きることについて、考え、全身で表現している。その「現れ」がおもしろいし、僭越ながら共感もする。出題と正解で成立するクイズみたいな現実にしか興味がない人にバストリオはまったくおもしろくないのだろうと思うが、クイズで解ける世界像と解けない世界像のどちらがよいのか、私にはわからないし、どちらがよいかわかって正解を出すことがそもそもクイズ側の考え方だから否定も肯定もしない。

今作の『グッドバイ』もまた本質に変わりはなく、関連性があるような、ないような、シーンやセリフ、ダンス的な身体表現、小道具使いの断片からなるつくりも、これまでのバストリオ作品に見られた表面的な特質においても大きく変わるところはなかった。ただ、上演開始と同時に「跳ねた」感覚が、体を実際にぐいっとつかまれたような強さでもって走り、その予感に近いものは水が溢れるぎりぎりの表面張力のようなテンションで終演まで、終演後までも持続していた。過去最高の作品強度だったと思う。そこに達したひとつはシンプルなフレームにあったのではないか。出演者が外から会場に入って来て横一列に並び、実名で紹介されるところから上演は始まるが、会場を戸外に開放した形態とともにここで示される現実/虚構の境界を外したフレームは、本作と原作である太宰治『グッド・バイ』との関係、さらに『グッド・バイ』作品世界と太宰治=津島修治との関係に重ねられる。大きな方向を見せた上で予想される多層性に期待を煽られる導入は「いったいこれは…」とつかみどころを探りながら謎が増殖していくこれまでのバストリオ作品との違いを感じさせた。

そのフレーム(というほどの明確なものではなく、現実/虚構を往還し境界を無効化する方法とでもいうか)の中で、出演者の日記(格助詞が抜かれた文として)が読まれたり、マッチが擦られたり、言葉や記号が紙に書かれて貼られたり、小銭が撒かれたり、時間の流れを引き伸ばすようなダンスやコミュニケーションのカリカチュアのようなダンスが行われたり床に転がったり、誰かの記憶が語られたり、水が注がれたり、水を飲んだり吐いたり浴びたりして、水のイメージは樹海の描写から生命をめぐる話を経て川のイメージにもつながって、太宰の入水が暗示されたり、唐突に漫才が挿入されたり(あの「焼き」のネタはフットボールアワーに似たものがある)、出演者は町へ出てしばらく歩いて戻ったり、通りの向こうに立ち(出演者がそこに立つ時、会場内にはない劇的な虚構が立ち上がる。彼らは異界の者のようにも見え、クルマや人の行き交う道が異界との分水嶺になる。そして彼ら異界からの視線と声が交通することによって会場は町の中に出現した異界に変容し、観客は会場にいながら偏在して俯瞰する者になる)、または入り口前のベンチに座り、会場内を見ていたりする(その姿はここと異界を俯瞰する観客と近似する)のだけれど、それら断片の関連性は先ほども書いたように明白ではない。

明白ではないのだけれど、予想以上に原作のテキストがそのまま使われるシーンが多く(とはいえ、原作の舞台化とも引用ともちがう扱いになっている。主人公<田島>の代理として配された原作には登場しない<X>とは<田島>の分身であり操り師である太宰か、作品世界に介入した不特定多数の読者か観客である我々か、『グッド・バイ』を虚構から現実に引きずり出した今野裕一郎か、それとも現実そのものか)全体を貫通していたことと、それとの相互作用もあってか、シーンやセリフが研磨されて無駄がなく(ノイズがないという意味ではなく、精度が高い、純度が高いという意味で、前作『点滅、フリー、発光体』での達成をさらに更新していたと思う)、すべてがフレームの内外へ乱反射していた印象があり、さらに音楽とフィールドレコーディングの音響がシーンを紡ぐように作品のトーンを浮かび上がらせていたことで、これまでのバストリオに多く見られたシーンの接合面が剥き出しのハイブリット感(その歪さ、異物感も捨てがたい魅力ではある)とはちがう、多様なエッセンスが有機的な流れになってどこへともなく運ばれていく感覚があった。それら一連が強度として感知されたのではないかと思う。

未完の遺作である『グッド・バイ』が終わらない「グッド・バイ」を告げ続けるように、バストリオ『グッドバイ』は日々の些事や遠い記憶や歴史に無言の別れを緩やかに送りながら、現実/虚構のどちらでもない場所から目の前の時間と遥か遠くをわずかに照らすような作品だった。タイトルが『グッド・バイ』ではなく『グッドバイ』だったのは別れには良いも悪いもなく、すべて「グッド」なのだから「・」で切り離すことはないという意味がもしも込められていたとしたらそれも納得する。作中とても印象的だったのは幽霊なのだろうか?と幾度か語られる「白い煙のようなもの」の描写。樹海の上空やSNACの向かいの廃屋を漂っていくそのイメージはやさしく温かく(音楽と音響の力も大)、それが主体も意識もなくした生が辿り着くもの、まさに「わからない」現実の正体のように感じられて、その日の舞台や清澄白河の町に現れた人や物のある光景までがやがて「白い煙のようなもの」に変容していくのかもしれないと思っていると、ラストで今野氏が白紙の紙を会場に一枚ずつ舞わせ、橋本和加子が紙飛行機を炎天下の通りの向こうに立つ出演者に向けて飛ばした時に、開演からヤバかった私の涙の表面張力は破れたのだった。徹底して低体温のバストリオではあるけれど、作品強度とともにセンチメントにおいても過去最高レベルだったのではなかろうか。

遊園地再生事業団『ジャパニーズ・スリーピング』以来だった山村麻由美の佇まいと発話の美しさをはじめ、出演した役者さんがみんな良かった。当然ながら彼らも作品と不可分な存在であって、あの日あの時の彼らでなければ『グッドバイ』は別の作品になっていただろう。関係ないけど、不可分といえば、自民党の選挙カーが上演中に大音声で通り過ぎて、乗ってる人たちが会場の私たちに満面の笑顔で手振ってたのおもしろかったなあ。『グッドバイ』(あるいは『グッド・バイ』)には戦後から現在に至る心性も織り込まれていただけに、よくできた風刺のようだった。

バストリオ『グッドバイ』についての以上の感想は昨年ここで長々と書いたマームと飴屋さんの感想にかなり似ている。このブログではたいてい同じことを繰り返し書いていて、おれはもう同じことしか書かないな、同じようにしか感じられないし、書きたいことがないんだな、と、そんなふうに思ってるうちに半年近くも放置してしまったのだけども、それにしてもマームと飴屋さんについての感想のほとんど変相のようになってしまった気がするのは、あの作品が同じ会場で同じように戸を開放して、町も使って上演されたこと以上に、その方法で特に飴屋法水がやろうとしたことと今回のバストリオのやろうとしたことが近いからなのだと手前勝手ながら思っている。





そんなわけでずいぶん間が空きましたが、また日記のように、ボヤキのように、何かの感想のように、あるいは小説のように、気が向いたら書いていきます。

上で7月6日を「炎天下」とか書いてますけど、あれから日々暑さが増している。



なー、ゴマ。d0075945_1264022.jpg

[PR]
by gomaist | 2013-07-12 01:46 | 演劇


ゴマと日日と音楽と。


by gomaist

プロフィールを見る
画像一覧

お気に入りブログ

ゴマブロ

以前の記事

2013年 11月
2013年 10月
2013年 07月
2013年 02月
2013年 01月
more...

検索

ブログパーツ

OSインストール方法

人気ジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31