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「書いとかないとすぐ忘れちゃう」

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■『ジャパニーズ・スリーピング/世界でいちばん眠い場所』を観た。とてもおもしろかっただけでなく、舞台美術、映像の使い方、音楽、役者の動きと配置、声、すべてが良かったです。以下、感じたこと、考えたことをざっと。書いとかないとすぐ忘れちゃうので。明日(明けて今日)の最終日を見られる方がもしいらしたら、読まないほうがいいと思います。

■舞台美術の美しさ、かっこよさに唸る。鏡面状になったアクリル(?)のステージの中央に置かれたアールヌーボー調のソファ、そして左右にシンメトリーに整置された20〜30台ほどのモニターには黒バックに青くゆらめく金魚(もしくは熱帯魚。上演途中までテキスタイルだと思っていた)の同じ映像が映っている。後方背景は組み合わせた金属板のように見える壁で、それは映像の投影スクリーンとして機能することになる。この装置が暗転の舞台に晒された様子だけで、開演前にすでに傑作の予感というか、期待値が傑作に設定されてしまったが期待にたがわなかった。

■『ジャパニーズ・スリーピング/世界でいちばん眠い場所』はタイトル通りに「眠り」に関する考察と引用でランダムに構成された演劇だ。ただし、そこに物語はなく、まさに考察と引用が複数の役者の肉体と映像によってランダムに配置されたものとして最後まで進行する。や、進行さえしない、背景の映像とステージ上の役者が実像/虚像、見る者/見られる者の反転を繰り返すように、「世界でいちばん眠い場所はどこですか?」という問いを巡って、考察と引用は無限のように増幅し反復する。「眠り」について考えることは宮沢章夫さん本人が言うように「死」を考えることに結びついている。「死」に関する正解がないように、「眠り」に関する問いもまた、「眠り」に直接触れることはできずに、「関する」ままの状態で周囲を回り続けるだけだ。

■目覚めている状態の者が眠っている自分を考えることは、脳が自身の脳について考えるパラドックスにどこか似ていると思う。私は目覚めている(生きている)のか、眠っている(死んでいる)のか、自分がこの現実世界に存在しているということを究極的には自ら確かめることはできない。「さっき言ったことを忘れていたことを忘れていた」というセリフにも象徴される認識の懐疑は無限に続く。それはスクリーンに向かってステージを捉えたリアルタイムの映像のなかに、合わせ鏡の原理でスクリーンに映る像がどこまでも続く演出や、鏡面のステージに立つ役者の実体/鏡像にも対称している。この語れないものを語ろうとする行いは、劇中小説の入れ子構造にも表れていて、だから小説は未完のまま書かれることはない。

■「眠り」を題材にした発端は宮沢さん自身の睡眠障害にあるということだけれど、小説が未完の状態であることもまた作者本人の現実であるらしいことから、集大成的な今回の舞台はもしかしたら宮沢さんにとっての『8 1/2』のようなものかもしれないとも思った。太田省吾(水をかける場面の、じわじわとステージに流れる水のなんて美しいこと)や寺山修司の演劇のマッシュアップは、これが宮沢さんの演劇についての演劇であることも示している。また、<眠らない男>の目覚めたままの意識がコントロールできない眠りに撹乱される終盤の不条理なセリフから、回路を切られてバグを起こすHAL9000の最期の様子を連想した。そうして考えると、舞台上に表れているものは個人の意識活動の暗喩とも捉えられ、謎めいた<チャプター>の設定は意識のインデックスなのかもしれない。未表出の意識は直線的に配列されることなく、ランダムかつ反復的に活動している。同時にそれはそのまま現実世界の剥き出しの姿でもあって、「物語」が成立することの困難さ、不可思議さにもつながらないか。

■今日は無駄なことがたくさん書けた。まだ書いておきたいことがあるのだけれど、また眠れなくなりそうなので後日。

なー、ゴマ。「書いとかないとすぐ忘れちゃう」_d0075945_340565.jpg
by gomaist | 2010-10-24 03:56 | 演劇


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